オーディオジャックは長年にわたり音楽機器業界で使われている”あって当然で、なければ困る”というものですが、それをなくしてしまおうというアップルの考え方に驚きました。
これはアップルの傲慢なのか、したたかな戦略なのか。
これでアップルはどれだけ稼ごうと考えているのでしょうか、考えてみました。
オーディオジャック廃止が直接起因する増益
収益アップにはいろいろな要素がありますが、先ずは分かりやすく、アップルが特許を保有しているLightning端子に関する収益アップを推算してみました。
ライセンス認証料
Lightning端子には接続されるアクセサリを認証するためのチップが埋め込まれていて、その認証についての特許をアップルが保有していて認証1件ずつにライセンス料を支払う必要があるらしいですね。
ライセンス費用は4.00USドルだったとのことです。最近値下げしたらしいとの情報もありますがいったん無視します。
Until this year, Apple was issuing third parties a flat $4 per-connector fee.
Apple quietly lowers licensing fees for Lightning, MFI accessories | MacNN
Lightning端子対応アクセサリがどれだけ増えるか
旧来ジャック廃止により影響を受けるアクセサリは、
- イヤホン
- スピーカー
の2つが想定されます。
スピーカーは既にLightning対応のものが多い一方、イヤホンはほとんどがオーディオジャック対応のものと考えますので、ここではスピーカーは無視してイヤホンの数だけを想定することにします。
対象となるイヤホン
iPhone出荷台数は、2014年3Qから2015年4Qまでの1年間で222.44百万台(約2.2億台)でした。
Lightningプラグのライセンス認証件数の推定
iPhoneには標準でイヤホンがついているので、新規にイヤホンを買うケースはそれほど多くないと考えました。ここでは、Lightningプラグのイヤホンの販売数量つまりライセンス認証はiPhone出荷台数の1%、222万件/年と仮定します。
ちなみに、イヤホンの市場規模は下のサイトでの情報から推測すると約3億本/年。
この大半はAndroid端末や旧来のオーディオプレーヤー、Bluetooth対応のものと想定されます。上の222万件/年はそれなりに妥当な数字と思われます。
オーディオジャック廃止による増益金額を推定
ライセンス料の収益アップによる限界利益への貢献額は、
222.44万台/年 × 4.00USドル = 889.7万USドル/年 ≒ 約11億円/年 ・・・A
旧来のオーディオジャックがなくなり、その分材料費が下がります。これによる限界利益への貢献額は、
1億台/年 × 1.00USドル = 1億USドル ≒ 120億円/年 ・・・B
AとBとを合わせて約131億円/年が限界利益として増えます。
ここから設計変更の開発費用を減じた分がそのままアップルの営業利益に乗ってきます。
開発に係る経費や人件費は大きくても数千万円規模と思われます。すなわち120億円/年に対してほぼ無視できる金額といっても良いです。
これらの増益のアップルの業績へのインパクトは
アップルの2015年度第四四半期の純利益は(なんと)111億USドルです。そこからすれば、年間1億ドル強(四半期で0.25億ドル強)という数字は大したことありません。
すると、このジャック廃止にはライセンス料アップやコストダウン以外の、さらに大きな戦略が潜んでいるのではと気づきました。
見逃せない顧客満足度向上効果による増益
ライセンス料の増収と材料費低減による限界利益の増加は上のようになりましたが、別の視点で考えてみました。"オーディオジャック廃止による顧客満足向上"です。
『今まであったものがなくなることが顧客満足向上につながる』とはチョット思いつきにくいところです。冷静に考えてみました。
- オーディオジャックの破損や外部由来物質のジャック内の隙間から本体への侵入による故障が減る
- さらなる薄型化で、より製品の魅力が高まる
これにより、販売単価アップ及び販売台数アップが見込まれて、さらに増益しそうです。
しかし負の側面もありそうです。
このアイデアに死角はあるのか?
一つは『充電の機会が限られる』というものがあります。Lightning端子をイヤホンに使ってしまうと、同時に充電ができなくなってしまう、というわけです。
これについてアップルは、『イヤホンで聞いている間に充電するというユースケースはほとんどない』と想定しているのではないかと思いました。
イヤホンと充電を同時に行うニーズを考えてみました
充電は、自宅の室内、車の室内、オフィスの室内、ジョギングや自転車での移動時、バッテリーの電気残量が少ない場合の緊急充電時、の5ケースが考えられます。
①自宅の室内
自宅にいるのにイヤホンで聞くことはないと思われます。
②車の室内
通常はイヤホンかBluetoothで聴くことを想定することになりそう。車のDC電源で充電しながらの場合は、Bluetoothイヤホンで聴くことを(暗に)薦めることになると思われます。
③オフィスの室内
プログラマーやデザイン関係などデスクワークをする人がイヤホンで聴きながら仕事をすることがありそう。この場合は充電しながらイヤホンで音楽やポッドキャストを聴く場面があるかも知れません。
④ジョギング中や自転車での移動時
モバイルバッテリーでの充電が考えられるが、そういう事態はほとんどないと思われる。ジョギング中はかさばるだけだし、自転車での移動は、その前に自宅やオフィスで充電を済ませるハズ。
⑤バッテリーの電気残量が少ない場合の緊急充電時
モバイルバッテリーで充電する場合だが、そこまでしてイヤホンで音楽を聴くかな?
オーディオジャックの廃止の背後にあるアップルの製品戦略とは
このように考えますと、中期的なアップルの戦略は次のような感じではないかと思われます。
- ニュース通りにオーディオジャックがなくなる
- ②と③と⑤用に、Lightning形状の端子が2つついたアダプタが開発・発売され、そこにLightningイヤホンと給電用のLightningケーブルが挿せるようになる
- 本体に無線充電機能を搭載させる場合は、部品点数が増えてコストアップになりますが、「置くだけ」というスマートな使い勝手になるので価格アップをする可能性があります。
まとめ
オーディオジャックの廃止は、Lightningライセンス料による増収やコストダウンによる限界利益増加という側面よりも、顧客利便性向上による売上単価アップや販売台数増加にフォーカスしていると考えられました。
私がアップルの製品開発責任者だとしたら、イヤホンも充電も全てコードレスにしてしまいますけどね。
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